「薬歴を書くのに時間がかかる」「毎回、同じような内容になってしまう」——調剤薬局で働く薬剤師の悩みとして、これは上位に入り続けています。
閉局後に薬歴が残っていて帰れない。書こうとしても何を書けばいいか分からず、結局「服薬状況良好。特に問題なし。」で終わってしまう。心当たりがある方は多いはずです。
この記事では、SOAPの型に沿って迷わず書けるようになる考え方と、NG例・OK例の比較、そして指導監査で指摘されやすいポイントを整理します。
なぜ「特に問題なし」ではいけないのか
薬歴(薬剤服用歴管理記録)は、単なる業務メモではありません。次の3つの役割があります。
- 次に対応する薬剤師への引き継ぎ … 自分が休みの日に、別の薬剤師がその患者さんを見ます。前回何を確認し、何が宿題として残っているかが分からなければ、また同じ質問を最初からすることになります
- 継続的な薬学的管理の記録 … 服薬指導は1回で完結しません。前回の指導がどう効いたかを見て次を組み立てるものです
- 算定要件としての記録 … 服薬管理指導料をはじめとする指導料は、薬学的管理を行い記録することが前提です。記録がなければ、行ったことの証明ができません
「特に問題なし」だけの薬歴は、この3つのどれも果たしていません。次に読む人は何も分からず、自分の判断の根拠も残らず、算定の裏づけにもなりません。
SOAPは「4つの箱」に分けるだけ
SOAPは難しく考える必要はありません。聞いたこと・見たこと・考えたこと・これからすることの4つに仕分けるだけです。
| 箱 | 何を入れるか |
|---|---|
| S(主観的情報) | 患者さんが言ったこと。症状の訴え、飲み心地、生活の状況、不安、要望。できるだけ患者さんの言葉のまま |
| O(客観的情報) | 自分が確認した事実。処方内容の変更、検査値、残薬数、お薬手帳の記載、見た目の様子、併用薬 |
| A(評価) | SとOから薬剤師として考えたこと。なぜそう判断したかの根拠。ここが薬歴の中心です |
| P(計画) | 実際にした指導と、次回の宿題。疑義照会の内容、次回確認すること、医師への情報提供 |
迷ったときは「これは患者さんが言ったこと? 自分が見たこと?」と自問すれば、SとOは自然に分かれます。
NG例とOK例を比べる
NG例:降圧薬の継続処方
S)特に変わりなし
O)処方変更なし
A)問題なし
P)服薬指導実施
これでは、次に読む薬剤師が得られる情報がゼロです。「本当に確認したのか」も伝わりません。
OK例:同じ場面
S)「朝はバタバタしていて、たまに飲み忘れる。気づいたのが昼だったら飲まないようにしている」
O)アムロジピン5mg 朝食後、処方変更なし。残薬確認したところ約5日分。前回来局から36日経過。血圧手帳は持参なし、自宅では測っているとのこと
A)飲み忘れが月に数回ある可能性。気づいた時点で服用を控える判断自体は妥当だが、朝の動線に服薬が組み込まれていないことが原因と考えられる。残薬から見て服薬率は8割程度。血圧値が把握できていないため、コントロール状況の評価は次回持ち越し
P)朝食の席に薬を置く方法を提案、ご本人も「それならできそう」と同意。次回来局時に①残薬の減り方 ②血圧手帳の持参 を確認する。持参がなければ手帳の活用を再度案内する
この差はどこにあるでしょうか。文章の上手さではありません。「なぜそう判断したか」がAに書かれていることと、Pに次回の宿題が具体的に書かれていることです。
OK例:初回来局の患者さん
S)「胃が弱いので、痛み止めは前に飲んで気持ち悪くなったことがある」「市販の胃薬をときどき飲んでいる」
O)ロキソプロフェン60mg 頓用、レバミピド100mg 併用処方あり。お薬手帳未所持。市販薬の名称は不明、家族に確認してもらうことに
A)NSAIDsによる消化器症状の既往が疑われる。レバミピドの併用があり配慮された処方と考えられるが、市販の胃薬との重複の可能性がある。銘柄が特定できていないため、重複や相互作用の評価は保留
P)空腹時を避けて服用するよう説明、ご本人理解。市販薬の名称を次回持参いただくよう依頼。お薬手帳を発行し、活用方法を説明。市販薬の内容が判明次第、必要に応じて処方医へ情報提供する
ここでのポイントは、「分からなかったこと」を分からないまま書いている点です。無理に結論を出さず、保留にした理由と、次に何をするかを残しておけば、それは立派な薬歴になります。
書くときの具体的なルール6つ
- Sは患者さんの言葉のまま書く … 「アドヒアランス不良」とまとめず、「たまに飲み忘れる」と書く。要約するとニュアンスが消えます
- Aには必ず「なぜ」を入れる … 「問題なし」ではなく「◯◯なので問題なしと判断」。Aが一行の薬歴は、たいてい中身がありません
- Pは次に読む人への申し送りだと思って書く … 「次回、残薬を確認」まで書く
- 確認できなかったことも書く … 「血圧値は把握できず」は立派な情報です
- コピペしない … 前回と同じ文章が並ぶ薬歴は、指導監査でまず疑われます。何より、患者さんを見ていないことが自分でも分からなくなります
- その日のうちに書く … 後日まとめて書くのは、記憶が薄れるだけでなく、記録として重大な問題になります
指導監査で指摘されやすいポイント
- 記載そのものがない … 指導料を算定しているのに薬歴がない、というのは最も重い指摘です
- 後日のまとめ書き … 日付の整合が取れていないと問題になります
- 定型文の繰り返し … 全患者に同じ文章が並んでいる状態
- 必要な記載事項の欠落 … 副作用歴・アレルギー歴、残薬の状況、後発医薬品に関する患者さんの意向など、記録すべき事項が漏れている
- 指導内容と処方内容が対応していない
いずれも「実際にやっていても、書いていなければやっていないことになる」という一点に集約されます。
時間を短くするコツ
丁寧に書くと時間がかかる、というのは事実です。ただ、次の工夫で短縮できます。
- 投薬中にSとOをメモする … 服薬指導が終わってから思い出そうとするから時間がかかります。患者さんの言葉は、その場でしか正確に残せません
- Pを先に決めてから話す … 「今日はこれを確認して、これを伝える」と決めて投薬すれば、書く内容は投薬前から半分決まっています
- 前回のPを見てから投薬に入る … 前回の宿題が今日のSとOになります。これをやると、薬歴が「前回の続き」としてつながり、書く手も止まりません
最後の点がいちばん効きます。薬歴は1回ずつ独立した記録ではなく、その患者さんとの連続したやりとりの記録です。前回を見ずに投薬するから、毎回ゼロから考えることになります。
薬歴を書く時間が確保されていない職場もあります
ここまで書き方の話をしてきましたが、そもそも書く時間が業務時間内に確保されていない職場があります。閉局後に薬歴が残る、持ち帰る、後日まとめて書く——これは個人の 作業スピードの問題ではなく、人員配置と業務設計の問題です。
そして後日のまとめ書きは、指導監査で最も指摘されやすい項目でもあります。個人の努力で解決できる範囲を超えているなら、環境を変えることも選択肢に入ります。
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まとめ
- 「特に問題なし」の薬歴は、引き継ぎ・薬学的管理・算定の裏づけのどれも果たせない
- SOAPは聞いたこと・見たこと・考えたこと・これからすることの4つに仕分けるだけ
- Aに「なぜそう判断したか」を入れるのが薬歴の中心
- 分からなかったこと、確認できなかったことも書く。保留の理由と次の行動を残す
- コピペと後日のまとめ書きは、指導監査で最も指摘されやすい
- 前回のPを見てから投薬に入ると、書く時間そのものが短くなる
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